心療内科・精神科の診療では、薬をつかった治療を行います。他に、言葉を交わして治療を行う精神療法を行います。
うつ病を例に挙げてみます。
うつ病は、気分の落ち込み、不眠、不安、食欲不振、意欲の低下、思考力の低下、などがみられるメンタル不調です。
仕事の過労などでも、うつ病になることがあるので、わりと身近な精神疾患のひとつかもしれません。
うつ病と診断したときに、診察医は、治療の方針を組み立てていきます。
・ 薬物治療(くすりを使った治療)
・ 精神療法(不調になった原因の検索や、回復するための助言や支援、再発予防のための注意点の確認、など。)
・ 環境調整(仕事を一時お休みして、療養に専念するなど。健康回復するための環境の改善を行う。)
不眠症でも。他のメンタル不調でも、上記と同様の治療の方針を組み立てていくことになります。
現代のメンタル不調の診療で、主役となるのが薬物治療だと思います。
抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、気分安定薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、認知症治療薬、などです。
しかし、診察をしていますと、「薬を使わず治したい」と希望されている方もおられます。
「クスリに頼りたくない。」
「クスリに依存するようになりたくない。」
「依存性のあるクスリは使いたくない。」
「副作用の可能性があるならクスリは使いたくない。」
・・・ 発する言葉は人それぞれですが。できるだけクスリは飲みたくはない、という人は少なくありません。
もちろん、治療の方針や選択肢をお示ししたうえで、どうしても薬物治療は避けたいとのことであれば、無理強いはできません。
極力ご本人の希望を踏まえた治療を行うことになります。
ただ。やはり、体調をこわして受診された方に、できるだけ早く回復して、症状を緩和するためには薬物治療は有力な選択肢なのです。
まずは、薬物治療を行い、しっかりと症状の緩和や、症状のコントロールをつけることを考えるべきだと思います。
そして、一定の症状の緩和がはかれた上で、落ち着いて精神療法をすすめていくことになるのだと思います。
先述のうつ病の診療においても。まずは、抗うつ薬をしっかり使った上で、気分の落ち込みの症状を緩和。
思考力が低下した状態を、改善させていく。
そうして、ある程度症状が落ち着いたところで、患者さんと診察医とが言葉をかわしながらこころのケアをしていくという段階にすすみます。
ずっと、クスリ一辺倒という治療は良くない、というのは賛成です。
また、クスリ漬けのような治療も良くない、というのも全く賛成です。
でも、クスリを使った治療の良い部分を全く享受することなく、治療をすすめていくことも、賛成しかねます。
クスリを使えば受けられた症状緩和ができるのに、そうした利点をみすみす逃したまま、症状の苦痛を味わい続けることに意味はあるのでしょうか。
必要最小限の薬物治療は行ったほうがより良い結果をもたらすと思うのです。
「必要最小限」というところが、大事なところなのかもしれません。
そのところを、患者さんと診察医との相談のなかで合意点を見つけ出すことが大事なのだろうと思います。